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南相馬のコウバ 改修改装工事

 

敷地は福島県の南相馬市、施主家族が暮らす母屋に隣接する家屋の改修である。

家屋は施主の父がかつて金属加工を営む工場(コウバ)として30年程前に建設され、その役目を終えた後は物置・作業小屋として使用されていた。施主家族の子世帯は都内に暮らし、帰省時に一時的に過ごす場所を設えることが当初の目的であったが、現地に赴きご家族3世帯の話を伺う中で、その建物が日常の内のほんの少しの時間を過ごす「家ではないどこか」の場所として建物が家族の記憶と結びつきを保ちながら存在することを体感し、その未来の記憶の背景にこの建築が少しだけ寄り添うことができないかと考えた。

 

存建物は当時、地元の設計事務所が設計したものではあるが、設計事務所・施工会社はともに現存せず、図面も青焼図1枚という、ある意味詠み人知らずの家屋であった。一方で原設計が工場という用途ゆえに、通常よりも軒高が高く、四周に開口部が設けられ、内部環境には開放的な空間の質感があり、その質を残しながら、次の仕様につなげていくことを目指した。特に現地で1日を過ごす中で、朝から日没時までの澄んだ光環境が印象的で、今日まで家族が体感したであろうその光景を次代に追体験可能な状況として設えることはとても大切なことのように感じた。

本計画では既存建物の外壁や外部サッシは残置し、施主が30年間、毎日のように眺め過ごしている家屋の印象を大きく改変することなく、家族にとっての「コウバ」がその存在を失わず「コウバ」であり続けるように、使い方だけが更新されることを意図した。一方で家屋の構造安全性や性能を担保するために、ソフトでの耐震診断・改修計画を作成し、その理論値を満たす金物補強等を内部から行い、今後の利用に配慮した。また環境計画としては、全ての部屋で2面開口による自然通風と基礎廻りの断熱及び壁面に充填断熱を行い、できる限りの温熱環境に配慮している。

内装は既存建物の天井を解体し、一度スケルトンとしてた上で、必要諸室を間仕切壁で仕切る計画としている。天井を解体すると岩綿吸音板で覆われた工場としての役目から離れ、その建築本来の気積がむき出しにされたある種の清々しさがあり、当時の上棟時に思いをはせるような晴れやかさを感じた。壁面はあくまでもその存在感を活かすべく、白壁と素地の板材で構成し、各々の開口部が形つくる場所の設えを考慮して異なる様相で内部に光が届くように意図している。

地方都市において空家となり残置された家屋が知らずうちに朽ちていく状況を目にすることは多くなった。人口減少や高齢化が進む社会で各々のくらしの変化もあり、家屋解体やその土地利用への費用負担を考慮しても今後も当然のようにその状況が存在し続けることは容易に想像できる。一方で本件のように残された建物に小さく手を入れることで、家族の記憶をつなげ、社会と並走する小さな個人の物語の中で、次代の誰かのためのきっかけの場になる可能性はあるように感じている。私自身も詠み人知らずの一人の設計者として、未来の誰かに参照され、家屋が解体されるその日まで、この場所がささやかに使われ続けていくことを願っている。

・所在地:福島県南相馬市

​・用途:工場

・構造:木造

・延床面積:64.59㎡

・竣工:2023年

・施工:今野住建

・撮影者:佐藤早苗

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