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南相馬のコウバ写真展

本展は弊社が手がけた南相馬市にある小さな工場(コウバ)の改修工事を題材とした写真展である。

既存家屋の記録から引渡しまでの数ヶ月の間、私と共に現場に帯同した写真家佐藤の視点を元に工事プロセスやその周囲にある光景の断片を描いた展示である。

展示空間は佐藤の同窓でもある建築家貝沼泉実氏とデザイナー佐々木享氏、近年仙台を拠点として活躍する作曲家秩父英里氏と共にその空間構成を行った。佐藤の写真を元に各々の経験や知見、立ち位置による視座を交錯させ、ひとつの場所をつくることが何よりもの本展のテーマでもあった。

 

コアメンバーであった佐藤・貝沼両氏とは約半年にわたりミーティングを定期的に行い、(私自身は偶の週末の現調以外はWEB参加が主であったが)秋を過ぎたあたりからは現地や宮城大学で実験検討等をして計画を進めた。個人的に特に印象的だったのは両氏が地場のホームセンターで購入してきたコンクリートブロックを大学に持ち込み、スタディを行う中で、展示什器の原型となるものを見つけた折に3人で盛り上がったことで、なんだかとても清々しく初心に戻ったような心地であった。その数カ月先の展示どうこうよりもこの時間が何よりだと認識したことを覚えている。

 

本展を構成する水糸とコンクリートブロックで構成された展示什器は、プレーンなギャラリーの中で展示物と鑑賞者との境界を曖昧に結び付け、距離感や姿勢のような鑑賞時の振る舞いを各々に委ねている。また普段は閉鎖された展示室の開口壁面を取り払い、自然光を室内に入れることで、天候や時刻による変化も鑑賞体験の一部を担っている。会場内では南相馬市の現地の環境音や工事中の音声をサンプリングした音源を背景に流し、散策する鑑賞体験に音が寄り添っていくような関係性を描くことを目指した。個人的には意図した以上に音があることがもたらす「何かしら」の存在感に関心をいだく契機にもなり展示会期中の発見的な体験であった。

 

本件は規模としては「小さな」とも言うる改修工事ながらも、その場に関係する方々にとっては決して小さなことではなく、設計し実現していくその行為自体が誰かの人生の時間そのものである当たり前の事実について、いつも以上に向き合う仕事でもあった。

工事が着工した2023年は東日本大震災から12年を経た節目の年でもあり、沿岸部や中心市街地に幾度となく足を運ぶ中では日々を営む人々の持つしなやかな強さや次代への兆しを目にすることも多くあった。展示に訪れた方々が東北のどこかのある街でくらす人々の姿にも思いを巡らせていただければ幸いと思う。

・所在地:宮城県仙台市 SARP

​・用途:

・構造:

・延床面積:

・竣工:2024年

・施工:

・撮影者:佐藤早苗

・主催:小池宏明建築設計事務所

・協賛:有限会社今野住建

・特別協力:瀬田周平・中木亨

・ディレクション:小池宏明

​・写真:佐藤早苗

・会場デザイン:貝沼泉実

・グラフィック:佐々木享

・音楽:秩父英里

・映像:高橋啓吾

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